白く澄んだ青春【スマートジャンキーリポート13】

 



 

「今日何日目ですか?」

 


覚醒剤ユーザーは全然寝ない。

 


何日間起きているかという話題から会話は始まる。覚醒剤ユーザー同士の挨拶みたいなもんだ。

 


自分と親友は売人がアジトとして使っている民泊へよくお邪魔していた。

 


売人は民泊を住処にする。ホテルでもいいけど人の出入りが激しいと怪しまれやすいしカメラもある。

 


民泊は飛ばし携帯のウェブカードで決済ができるので足がつきにくいのが大きな利点だ。

 


自分達は覚醒剤をガッツリ遊びたい時だけ使うというルールを決めていた。

 


覚醒剤に浸かり切ってる人達を間近で見ていて、やりすぎると良くないなと思うことは多々あった。

 


自分達も最初はうまく付き合えていたつもりだったがそれもそのうち崩壊した。

 


覚醒剤は数日間起きて遊ぶことができる。その分、体や精神面への負担は他の薬物と比べると遥かに大きい。

 

この頃は親友も仕事を辞めていて、自分は仕事をしていなかったのでほぼ毎日ドラッグ遊びをしていた。

 


売人のアジトにはリーダーと呼ばれる人がいて、その人がヤクザから覚せい剤を安く卸してもらい売人が売り捌くという流れだった。

 


その当時の覚醒剤の相場はまとまった量を取れば1g7000〜8000円とか。それを若い衆がリーダーから買って客に売るという構図。

 


自分はこの時は売人をやっていなかったので傍で見てるだけだった。

 

たしかまとめて取った覚せい剤を売人が0.5gで15000円、1gで25000円くらいで客に売っていたと思う。

 

最初の頃は覚醒剤を毎日使うわけではなく、遊びたい時に使うというラフな付き合い方をしていた。

 

本当はコカインが好きだったけど毎日吸うと高いし、そもそも良いコカインがあまり無いので覚せい剤をやることが次第に増えていった。

 


覚醒剤1gを二人で取って一回の遊びで使い切るという使い方をしていた。一回といっても覚せい剤は効きが長いので何日にも渡って遊べる。いつも三日か四日は起きていたかな。

 


この頃になると覚醒剤を炙るのも手慣れたもんだ。

 

慣れた手付きで砕けた覚醒剤をガラスパイプの中に入れ、ガラスパイプを目の前で左右に振りながら火を灯す。

 


すると覚醒剤が溶け、真っ白な煙が立ち上がり、深く吸い込み吐き出す。これを何度か繰り返すと次第に頭は澄んで体はぽっと宙に浮いたように軽くなり元気が出る。

 


「ライターの火は最小にしてシャブが焦げんようにな。青い部分で炙るんやで」

 


これがリーダー教え。リーダーは関西弁の気のいい兄貴みたいな存在だった。

 


いつも覚醒剤の煙で白く濁り、息を止めたくなるような空気の悪い部屋に自分達はいた。

 

 

アジトに行った時は購入しに来る客や売人たちと世間話をして時間を過ごしていた。

 


覚醒剤ユーザーの話はとにかく長い。「まだ終わらないのかこの話は」と何度も親友と目を合わせて笑ったことがある。

 


しかも本人は話している最中に内容を忘れてしまっていることもよくある。

 

「結局何の話なんだこれ?」なんてよく思ってた。覚醒剤ユーザーはみんなお喋りとジョークが大好き。

 


アジトの中まで入ってくるのは基本売人。末端のお客さんは外の指定場所に呼んで手渡ししていた。

 


女は基本的に男と買いに来ることが多い。だがアジトに何度も出入りしているうちに別の男と親密な関係になってしまう。

 

そして元々一緒に来ていた男と揉める。これが頻繁に起きた。

 


自分がつるんでいた覚醒剤ユーザーは何故かみんな女がいた。

 

それはモテるとかどうとかの話ではなく異性を探す能力が覚醒剤によって跳ね上がるからだと思う。

 


覚醒剤に女は付き物だ。そして女性関係のトラブルに巻き込まれることもよくあった。

 


アジトにいた人達は炙りや注射とやり方は違えどみんな覚醒剤をやっていた。

 

みんなそれぞれカタがあった。カタというのは癖のこと。

 


体毛が気になってずっと抜いている人、女にひたすら電話でアポを取ろうとする人、気性が荒く些細なことで急に切れる人、何度も何度も薬物と金を数えている人。本当に多種多様だ。

 


たまに電波が飛んできてコンセントを刺す部分の分解を始めようとしてする人もいた。

 

やめろと言っても聞かないので「何も刺さってないところにしてくれ」と誰かが声をかけたりしていた。

 


そしてこのアジトに居るのが飽きたら自分と親友はガラスパイプとパケを手にして外へ出ていた。

 


よく行ってたのはカラオケ。覚せい剤とカラオケの相性は抜群にいい。よく新宿西口のカラオケにいた。

 

 

店舗のマネージャーが覚醒剤中毒で売人グループの良いお客さんだった。

 

 

ここによく行っていた理由はセキュリティ面。〇〇号室はドアの前を人が通らずカメラもないため部屋に客を呼んで取引ができた。

 

 

しかも部屋で覚醒剤を炙ってよかった。その見返りに覚醒剤を店の人に渡していたみたいだ。

 


覚醒剤を使用してのカラオケは声帯が開いていつもの数倍は声が出る。そして喉が開くから普段歌えない高音域が軽々と歌えるようになる。

 


これは凄く調子が良かった。トイレで覚せい剤を炙っては歌いまくって気がついたら10時間近く経っているなんてこともザラにあった。

 


売人ともよく一緒にカラオケに行った。客の女の子が来て一緒に遊んだりもした。

 


その後誰が一緒に女の子を持ち帰るかなんてイベントも楽しんだ。

 

出会ったばかりの女の子と揉めて通報されそうになったこともあったけど。

 


カラオケに飽きたらギャンブルに向かった。歌舞伎町の裏スロかインターネットカジノによく入り浸ってた。

 

ギャンブルと覚醒剤も非常に相性が良い。相性がいい故に非常によろしくない。

 


自分も痛い思いをよくしたけど、一緒にいた売人なんてケツの毛までむしられるくらいよく負けていた。

 

よく「このままじゃ帰れない」と言いインターネットカジノの入っている歌舞伎町のビルに客を呼びつけて覚せい剤を捌きお金を作ってまたバカラをやっていた。

 


覚醒剤ユーザーは毎日が破天荒な生活だ。遊びきった後は地獄の切れ目に苦しんだ。

 


覚醒剤にハマるに連れてトラブルはどんどん増えた。

 


喧嘩なんてしたことがなかった親友とも女や金で揉めてよく喧嘩するようになった。殺してやろうと思ったこともあった。

 


覚醒剤をやっていた時期は毎日がドラマティックだった。

 

 

凄く楽しかったけどその分辛いことや苦しいことも数え切れないほどあった。

 

 

毎日毎日出口の見えない迷路に閉じ込められているようだった。

 


でも覚醒剤をやっていた時期も青春の1ページだし、自分の過去は否定したくない。

 


自分はうまくいかないことを薬物のせいにする人が嫌いだ。

 


自分も酷い薬物中毒で地獄を見た。そのせいで失ったものは大きい。

 

 

でも何かのせいにし始めたらキリがない。

 

 

自分の人生、尻拭いは自分にしかできない。

 

 

※この物語は全てフィクションです。違法薬物の使用、犯罪行為を助長するものでは一切ございません。

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