【後編】飼われてる動物って幸せなのか?【スマートジャンキーリポート11-2】

 


タクシーに乗り、港に向かっている最中だった。

 

「深海魚食べたことあるんだっけ?」
「いや、初めてです」
「珍しいから流行ってるみたいだよ」
「行ってみましょう」

 

観光タクシーでの旅行だ。この日の行き先は全て任せることにした。しばらくして沼津港に着き、タバコを吸ってくると言って港でジョイントを吸った。

 

そして目当ての深海魚寿司屋に到着した。入ると水槽に入っているあんこうと目が合う。

 

「ようこそ」と声をかけられた気がしたので「おす」と小さく挨拶をした。あんこうはよく見るとチャーミングな顔をしていて可愛らしい。

 

室内に入ると視界が大きく変化してきていることに気がついた。

 

「何食べる?」
「んー、自分は深海魚丼にします」
「俺も同じので」

 

店員に注文をするのが少し難しくなるくらいには効いてきていた。メニューを見て何度もやり取りするのが面倒だったので、深海魚丼を2人とも頼んだ。

 

間もなくして深海魚丼がテーブルに着き、目を疑った。深海魚は切り身のものもあるが、大部分は頭が付いており魚の形をしている。

 

深海魚たちが白米の上で動いているように見えた。採れたての状態でピチピチと跳ねているような。そのせいで店員が丼に乗った深海魚の説明を始めるがまるで耳に入ってこない。

 

本当に動いている?それとも曲がっているせいで動いて見えるだけ?もしくはどっちも?

 

そんなことを考えながら深海魚丼をじっくり眺めた。そして店員が魚の説明を終える。ふと気になったことを質問する。

 

「あんこうってどれですか?」
「あんこう?この切り身です」

 

店内に入った時にいた、あんこうを思い出してしまい食べるのが忍びなくなってしまった。あんこうだけ避けて食べ始めた。

 

魚を見ながら食べると見られているような気がしてなるべく目線を合わせずに食べた。

 

深海魚の見た目はグロテスクで、小さなプレデター達を胃の中に入れているような気分になった。

 

「食べるの早いね。美味しかった?」
「美味しかったです」

 

余計なことを考えると食べられなくなりそうだったので一気に食べた。味は正直全然覚えてない。その後、店を出て港でタバコを吸った。

 

「お前まだ食える?」
「飯?食えねーよ」
「紙だよ。一枚残ってる」
「イケるよ」

 

1枚残っていたLSDを親友と半分に分けて口に含み、タクシーに乗り込んだ。

 

「次牧場行こうよ」
「行きましょう」
「オラッチェってとこがあってね、ミルクが美味しいんだよ」
「いいっすね、ミルク飲みたいです」
「イケるよ」

 

「あれ?今どこ向かっているんでしたっけ?」
「牧場だよ。もう忘れちゃったの?」
「牧場でしたよね、ど忘れしました」

 

タクシーの中で記憶が曖昧になるモードに入ってしまった。ふとまばたきをするとなぜタクシーに乗っているのか、誰が運転しているのか一瞬分からなくなる。

 

外を見ると山が油絵のように美しく見える。急に四方八方が絵のように見え、壮大な美術館に閉じ込められたような感覚に陥った。

 

タクシーから見る外の景色は窓枠に切り取られて常に変化する絵画のようだ。

 

外を見ながら「景色いいな。てかここどこだったっけ?まあいいわ。」そんなことを思いながら流れに身を任す。

 

「到着したよ」

 

言われるがままにタクシーを降りた。この時はもう視界がグワングワン。牧場の手前にある建物に入ると凄まじい光景が目に写る。

 

建物の中に入った途端、急に目の前が全てドットの世界になってしまった。建物の中はポップで原色系の色使いをしていた。緑、黄、赤、茶と色の塊があちこちにある。

 

色の塊一点だけを見つめるのは危険だ。時間の感覚が無いので見ているうちに何秒、何分見ているのか分からなくなってしまう。下手したら不審者だ。

 

そして色に吸い込まれそうになる。というか自分が色そのものになってしまうような感覚さえあった。

 

色から抜け出し、動物にあげるための野菜を買って牧場に向かった。

 

歩くと芝生が深く沈んで足を吸い込まれそうになる。

 

「おい!ヤギ見てみろよ」

 

そう言われヤギを目にする。どうみても絵本に出てくる妖怪の老婆に見えてしまう。

 

目が合うと取り憑かれてしまいそうな気がした。野菜をくれと言っていたので仕方なくキャベツをあげた。

 

キャベツを上げるときにヤギの舌が手に触れて一瞬視界が灰色になる。

 

食べられるのではないかと恐怖を感じた。必死で持ちこたえて気を取り直す。

 

少し歩くと牛がいた。牛の柄はとてもファッショナブルで、酪農界ではお洒落な存在だ。近づくとゲップを吐かれたので少し気分が悪くなり早々に立ち去った。

 

最後に見たのが羊。羊は雲のような綿をまとって宙に浮いているように見えた。動く羊を眺めていると雲がすぐ手元にあるかのように錯覚した。

 

近くに寄ってきたので残っていた野菜を全てあげた。

 

「楽しかった?牛乳でも飲んで帰ろう」

 

この後飲んだ牛乳は生命力の塊のようだった。LSDをやっている時に牛乳を飲むと急にパワーが湧いてくる。胃腸の弱くない方にはオススメしたい。

 

牧場を後にし、旅館までタクシーで送ってもらってコミネさんとはお別れした

 

コミネさんにはこの後、熱海で毎回観光をお願いすることになる。

 

旅館に到着してからは巻いてきたジョイントを吸い、旅館の前の海辺を散歩した。

 

「なんか夢みたいな一日だったな」
「深海魚は曲がってる時はダメだ」
「俺もなるべく魚を見ないようにして食べた」

 

「牧場はどうだった?」
「楽しかったけど、飼われてる動物って幸せなのか?」
「そう言われるとどうなんだろうね」
「俺には窮屈そうに見えた」

 

当時、自分の目には柵に囲まれた動物たちがとても窮屈そうに映った。

 

実際彼らは飼われているし、自由が無いといえば無い。

 

だけど今、当時の旅行を思い出すと、柵に囲まれた動物たちは幸せだったのかもしれないと感じる。

 

野に放たれたら様々な危険があるし、餌も自分で探さないといけない。

 

柵に囲まれているうちは安全に生きていられる。

 

実際どちらが幸せなのか、答えは動物たちにしか分からない。

 

この記事を書いていて、当時とは自分の価値観が変わっていることに気がついた。

 

LSDを好んでいた理由は、トリップ中に価値観が変わるヒントが落ちているから。

 

拾うかどうかは自分次第。

 

 

このドラッグリポートは副作用も無く極めて事実に近い薬物接種体験を楽しむことができます。安心して服用して下さい。

※この物語は全てフィクションです。違法薬物の使用、犯罪行為を助長するものでは一切ございません。

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