小さな錠剤には幸せが詰まっていた【スマートジャンキーリポート4】

 

 

「お前となら何でもできる気がする」

 

 

親友と部屋で大麻を吸いながら「青い春」という映画を見ていた。この映画は自分達が十代の時に一緒に見たことのある映画。松田龍平や高岡蒼佑が出演している青春映画だ。

 

「幸せなら手を叩こう」

 

と落書きの描かれた学校の屋上で柵の外に立って手を叩いた回数を競う"ベランダゲーム"を行い、失敗すると校庭に落ちてしまう。という、道のない未来へ進みつつある不安定な不良達を描いた話。

 

当時自分は無職だった。この時は24歳くらい。会社からボーナスを貰ったタイミングで辞めた。

 

学生の時に水商売のスカウトをしていて、そのおかげか貯金があった。親友は広告関係の仕事をやっていた。

 

ルームシェアなので生活費はあまりかからなかったし、ドラッグ遊びをやるくらいの余裕はあった。もし手持ちが無くなったらまた適当に考えればいいと思っていた。

 

この日は新宿のヨコヤマのところに行き、新しいドラッグを入手しに行った。パケに入った紫色の毒々しい色をした錠剤。MDMAだ。

 

後から調べたところ、その錠剤は、「パープルマセラッティ」というMDMAだった。

 

MDMAを摂取し始めてからはよくEcstacy DataというサイトでMDMAのことを調べていた。今このサイトはDrugs Dataという名前に変わっている。

 

まず最初にMDMAの注意点を上げておく。


・半分食べて1時間ほど様子を見る
・足りなかったらもう半分食べよう
・気分が悪くなったら動かず安静に
・空腹で食べると胃が悪くなる
・だが、強く効かせたいなら空腹がいい
・もっと強く効かせたかったら2〜3個食べよう


・ウィダーとキャベジンを飲むと胃のダメージが軽減される
・吐きたくなったら吐こう。吐いた後は調子が良くなる
・水分不足になること多々。たくさん水を飲め
・遊び終わったら風呂に入る。半身浴がいい
・寝る時は草と眠剤や抗不安薬(デパスなど)

 

少し多いけどこんなもんかな。またセッティングとかは詳しく書く。あとは死ぬ気で楽しもう。

 

ドラッグユーザーが周りにいなかった自分達はネットでドラッグの接種方法や作用や体験談などを調べていた。MDMAの作用には多幸感と書いてあった。

 

多幸感。よく分かんねえな、と思った記憶がある。そしてその日はネットで拾った知識を元に空腹の状態で舌下投与をした。

 

舌下というのは下唇の中に入れてMDMAを溶かして吸収させるという方法。今考えるととんでもない方法だ。

 

というのも、MDMAはめちゃくちゃ苦い。この世にある口から摂取するものの中で、苦さランキングがあれば三位以内には確実に入ると思う。

 

考えただけで憂鬱な気分になるくらい苦い。化学薬品の味なんだろうけど、他には例え難いくらいだ。しかもこの方法で接種すると下唇がただれることさえある。

 

「溶け切るまで我慢しろよ」

 

唇の中でMDMAが溶ける時間は地獄だった。それでも我慢した。MDMAをより強く効かせたかった。

 

溶け切ったあとは机の上にあったコーラを飲んで胃に流し込んだ。飲み込んだ後の口の中はとても苦くて気持ち悪かった。

 

「クッッッソまずいなこれ」
「ちゃんと我慢したか?」
「当たり前だろ」

 

30分くらい経ち、体がやけにフワフワとしてきた。足が浮いている感覚。

 

「ちょっと気分悪くなってきたからトイレ行ってくるわ」

 

親友はそう言ってトイレに行った。MDMAを接種すると嘔吐することがたまにある。自分は吐き気はなかったが、体が熱くなり少し発汗してきた。

 

さっきまで気持ち悪そうにしていた親友だが、トイレから戻るとケロッとした顔で戻ってきた。

 

「吐いた?水いっぱい飲んだ方がいいよ」
「全然大丈夫。めっちゃ元気になってきた」
「良かった」
「なんか動きたくなってきたな」
「外にでも出てみる?」
「いいね行こう」

 

ソファーから立つと浮遊感が凄かった。本当に体が浮いているみたいだった。そして自分達はいつも通りジョイントを巻いて世田谷公園に向かった。ノーザンライトだったかな。

 

体の感覚が普段と違い、上手く歩けなかった。しかも照明がやけに眩しい。その日の公園はいつもとは違い、やけにキラキラと輝いている。瞳孔が開いていたのかな。

 

公園に着いたところで親友はジョイントに火をつけた。

 

「調子はどう?」
「めっちゃいいわ。お前は?」
「最高」

 

MDMAと大麻は相性がとても良い。体がさらに軽くなり、MDMAの作用が増幅されるような感覚。そして何故か大麻を無限に吸えてしまう。喉もいつもと違って痛くない。味も普段より美味しく感じるのだ。

 

そしてまたフラフラと2人で歩いた。1〜2時間経つとMDMAの効きがピークになり、目の焦点が合わなくなっていた。これが俗に言う目ブレだ。

 

2人で公園の遊具を片っ端から遊んでいった。幼い頃に戻ったような感覚がした。

 

ブランコに乗った時なんてMDMAの作用である浮遊感と相まって空に吹っ飛ばされるんじゃないかと思った。体が尋常じゃなく軽かった。

 

空は星が綺麗で見上げると吸い込まれるような感覚がした。最高の気分だった。

 

一通り遊具で遊んだ後は疲れてしまったので、家に帰った。部屋に戻ってからは大麻を吸って先ほど途中まで見た「青い春」のラストシーンを見た。

 

そのシーンを真似して手を叩く親友を見たら何故だか面白くなって腹を抱えて笑った。気がついたら6時間くらい経っていた。時間がすぎるのはあっという間だった。

 

小さな錠剤には幸せが詰まっていた。初めてのMDMAは背中に羽が生えたみたいで終始心地が良かった。

 

この頃、将来のことには無頓着だったしどうでもよかった。今が楽しければ何でもいいと思っていた。でも一才悲観はしていなかった。親友と一緒なら何でもできるはずだと思っていたから。

 

確かにあの時の自分達には何でもできたはずだ。MDMAの抜けは他には形容し難い、虚しいような、寂しいような、何かに置いていかれるような感覚がする。

 

小学生の頃、夕方まで友達と遊んでから家に帰る時の、まだ遊びたいのに帰らないといけない感覚に凄く似ている気がした。

 

この感覚はどことなく、人との別れを経験する時の感覚と似ている気がしてとても切なくなる。苦手な感覚だった。

 

 

 

このドラッグリポートは副作用も無く極めて事実に近い薬物接種体験を楽しむことができます。安心して服用して下さい。

※この物語は全てフィクションです。違法薬物の使用、犯罪行為を助長するものでは一切ございません。

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